PSTNマイグレーションとは?
ISDNサービス終了。
固定電話網からIP網へ。
2024年問題にEDIは
どう対処すべきかを解説

INS終了、このさき固定電話の運命は…。
2024年の問題ではなく、すでに噴き出しつつある懸念

最終更新日:2023/07/20

●PSTN マイグレーションとは

PSTN マイグレーションとは、正式名称「Public Switched Telephone Network」と呼ばれるNTT東日本/西日本のPSTNのテクノロジーが、インターネットテクノロジーベースのIP網へ移行することを意味します。PSTNはアクセス回線とコアネットワーク網から構成されます。前者は発信者宅の電話機からNTT東日本/西日本が所有する加入者交換機までを指し、後者は加入者交換機、信号交換機、中継交換機などで成ります。この中で動的な交換を行うことによって発信者と着信者を接続しています。この網には主としてメタル回線によるアナログテクノロジーが利用されているため、アナログ回線とも称されています。
PSTNは、固定電話利用の減少に伴い回線数が激減。交換機の老朽化により部品補充が難しく、管理できる人材も減少しています。このような事情から固定電話網に対してNTT東日本/西日本は投資を継続するのが困難になり、IP網への切り替えを決断しました。つまり、PSTNは終了するのです。IP網への切り替え開始は2024年1月で、2025年1月までには切り替えを完了すると発表されています。

●ISDN(INSネットディジタル通信モード)がサービス終了に?
EDIの2024 年問題とは

2017年4月、東日本電信電話株式会社および西日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本/西日本)は、PSTN(公衆交換電話網:以下、PSTN)のIP網マイグレーションについて最新発表を行いました。PSTNのIP網への切り替えは以前から発表されていましたが、このとき2024年1月に切り換えを開始し、2025年1月までに完了すると明言されたのです。ここで切り替え対象とされたのは、加入電話およびINSネット(INSネット音声モードおよび、INSネットディジタル通信モード)です。
一般的に固定電話と呼ばれるこれらをEDIで利用している企業にとって、これは大問題です。なぜなら、ビジネスデータの送受信に日々利用している現在のEDI環境を今までと同じようには使えなくなる、そして、その時期がもうすぐそこに迫っているという2つの重大な事実を意味しているからです。
これがいわゆる“EDIの2024問題”といわれる課題で、対象企業は早急に何らかの対策を講じる必要があります。「まだ3年も先のこと」と思われるかもしれませんが、EDIはその企業内だけで進められる取り組みではありません。多様な取引先と歩調を合わせなければならず、通常のプロジェクトよりどうしても時間を多く要します。また、今日はwith/afterコロナ社会となり、以前のような対面活動が難しくなりました。これでさらに時間がかかる恐れがあり、現状調査から入るとしたら、3年などすぐ経過してしまいます。時間を置かず、今すぐ着手することを強くお勧めします。
NTT東日本/西日本はまた、このときに引き続きPSTNを使用したいと考える企業に対して、その受け皿としてメタルIP電話やこの技術を利用した補完策や代替案の用意があるとしました。だからといって「この先も固定電話は使える」と安心しないでください。この補完策にはある種の問題点があります。ここではその欠点の詳細についても解説します。
いずれにしても、「EDIの2024問題」は、放置すると現場が大混乱に陥る大きなリスクを秘めています。EDIで加入電話やISDN回線※1をお使いなら、ぜひ今から対策の検討を開始してください。

※1 ISDN回線:NTT東西ならびに他事業者が提供するISDNサービス

(参考)INSネット ディジタル通信モード終了でEDIに起こる深刻な影響

●PSTN から IP網 への移行

いつ PSTNは終了するのか

PTSNマイグレーションが最初に発表されたのは2010年11月です。この時はまだ2020年頃から5~6年かけてIP網へ切り換えていくというニュアンスでした。しかし、NTT東日本/西日本は上で見たように新しい発表を行い、IP網への契約切り替えを2024年1月に開始する、そして2025年1月までには切り替え完了を予定しているとしたのです。これは、4月-3月を会計年度とする企業が多い日本の産業界において、2023年度中にはPSTNの終了が始まってしまうことを意味しています。

IP 網への移行・ PSTNとの違い

それではPSTNとIP網はどこが違うのでしょうか。一言でいえば、前者はアナログテクノロジーであり、後者はディジタルテクノロジーであるということが最も異なる点です。
PSTNでのデータ伝送は、PCもしくはサーバから出たIPパケットという分割された小包状のディジタルデータをモデムでアナログデータに変換し、加入電話経由で局舎内に伝送します。その先のコアネットワークでもアナログデータのまま流れていき、相手側ではモデムを通してディジタルデータに変換し、PCもしくはサーバに渡します。
一方、IP網では、PCもしくはサーバから出る段階からIPパケットのままアクセス回線、コアネットワークを流れていき、相手側でも変換のプロセスなく到着します。
IP網への切り替えは、米国を始め世界の先進国で通信にからむ技術で着実に進んでいます。それはこれが現代の潮流といえる技術だからです。上記のような最新のICT(Information and Communication Technology)に基づいているため、高速・高品質のデータ伝送が可能で、市場で提供されているさまざまなサービスとも高い親和性を誇ります。また、ユーザ数が増え続けているため、設備コストやサービス料金を安価に設定できます。特に、従量制の電話料金と違って、距離に関係なく一律のサービス料金で利用できることは利用者にとって大きなメリットです。

<参考>
固定電話のIP網移行後のサービスと移行スケジュール(NTT東日本)
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/pdf/20171017_01_01.pdf

固定電話のIP網移行後のサービスと移行スケジュール(NTT西日本)
https://www.ntt-west.co.jp/news/1710/pdf/171017a.pdf

固定電話のIP網移行(NTT西日本)
https://www.ntt-west.co.jp/denwa/2024ikou/

固定電話のIP網移行(NTT東日本)
https://web116.jp/2024ikou/index.html?link_116id=Focus_Top_00

図1 PSTN(公衆交換電話網)からIP網へと切り替えられる通信のコアネットワーク

図1 PSTN(公衆交換電話網)からIP網へと切り替えられる通信のコアネットワーク

インターネット EDI への移行

このように今のPSTNはまもなく終了するという課題を抱えています。現在、EDI環境でPSTNを利用しているなら対策を講じる必要があります。最もよい解決策は早いうちにインターネットEDIへと移行してしまうことです。この方式であれば、高速・高品質かつ安価にEDI環境を構築することが可能です。グローバルな視点で考えると、EDIの今後の方向性はインターネットEDIで収束していきます。これまで日本のEDIは、わが国独自の仕様で高い精度での運用を実現してきました。しかし、あたりを見回してみると、世界でここまで繊細な運用管理を行っている国は他になく、逆にそのために日本と接続できないと世界から批判を受けてきました。これからはグローバル標準を満たし、伝送速度も快適なインターネットEDIを採用するのがあるべき姿と思われます。
具体的には2つの手段があります。1つめは、EDIを実行する環境のみをインターネット対応とする方法です。つまり、EDI通信プロトコルだけをインターネット対応のプロトコルに切り替えます。こちらは業務や運用の調査・見直し・開発を最小限にとどめ、移行作業を極力小さく抑えることが可能です。詳細に見ていくと、全銀ベーシック手順(全銀手順)・全銀TCP/IP 手順を利用していた場合とJCA手順を利用していた場合で、対応は次のように異なります。

■全銀ベーシック手順(全銀手順)・全銀TCP/IP手順を利用していた場合
●方法その1:インターネットに対応した全銀TCP/IP手順を利用する
全銀TCP/IP手順にSSL/TLSを組み合わせて、セキュリティを高めた通信プロトコルを用い、直接インターネットに接続してデータ交換を行います。業界標準の手順に、国際標準のセキュリティ技術を組み合わせているため、どのITベンダの製品でも違いはありません。すでに国内パッケージベンダ数社が実現しています。

●方法その2:SSLアクセラレータを通して全銀TCP/IP手順をそのまま利用する
市販のSSLアクセラレータをEDIシステムとルーターの間に設置して、全銀TCP/IP手順をそのまま通す方法です。これによって証明書付きの暗号化対応が可能になります。
SSLアクセラレータには、ハードウェア製品、ソフトウェア製品、ロードパランサやプロキシサーバなどに搭載された機能など、さまざまな形態があるため、構築の自由度が高くなります。

※これら2つの方法は、全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)の仕様に則った利用方法となります。
参考:https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/efforts/system/jba_protocol.pdf

■JCA手順を利用していた場合
通信プロトコルをJX手順に置き換えます。これは流通BMSで広く普及している手順です。メッセージはJCA手順で使用していた固定長のデータをそのまま利用します。そのため、アプリケーションを改修する必要はありません。しかし、全件再送/中途再送など、JCA手順特有の機能は実装されていないため、もしJCA手順でこの機能を利用していたなら、運用の変更が必要です。

2つめは、インターネットEDI標準を利用したEDIへ移行する方法です。各業界で取り組んでいるメッセージやメッセージフローの標準などを採用し、企業の業務改革も合わせながら実施する方式です。文字どおり、最新鋭のEDI環境に刷新できますが、根本的な業務の見直しが必要で、社内および業界内で十分な検討を行い、合意を得なければならず、通常、移行に少なくとも2~3年はかかります。業界によっては、通信プロトコルのみ指定し、メッセージは既存のものをそのまま使用し、業務移行の負荷を減らすことを検討している場合もあるので、まずは業界の指針を確認しましょう。このインターネットEDIをすでに実施している業界として、流通業界、IT/エレクトロニクス業界、石油化学業界、医療機器業界、医薬品業界、鉄鋼業界、建設業界があります。

●PSTNから IP 網へ移行時の問題

NTT東日本/西日本が示す補完策と代替案で大丈夫?

冒頭でも触れたように、NTT東日本/西日本はPSTNからIP網への移行に際して補完策と代替案を用意するとしています。
まず、補完策ですが、INSネットディジタル通信モードを利用していたEDI利用ユーザに関しては、メタルIP電話技術の一部を利用したものへと自動的に切り替わります。ただし、これは期限つきで提供される、いわば過渡期のつなぎ策です。2017年10月17日段階では、NTT東日本/西日本はこの提供を2027年までと発表しています。
次に、加入電話やINSネット音声モードを利用していたEDI利用ユーザですが、ここではメタルIP電話が提供されます。既存のメタル環境をそのまま利用できるというメリットは確かにあるのですが、伝送速度は他の条件が同じという前提で現行と同等の2,400bpsです。こちらは比較的長く提供される予定ですが、永続的に提供可能かどうかはわかりません。
次に代替案を見てみましょう。第1は「ひかり電話データコネクト」を利用する案です。これは、ひかり電話の契約者同士でデータ通信を行おうというものです。第2は「IP-VPN」を利用するという案です。最近、さまざまな通信事業者がサービスを提供しており、企業でも一般的に使われるようにはなっています。第3の方法として「無線」の利用も提案されています。

IP網移行、NTT東西が提示する
代替案と補完策で十分なのか?

NTT東日本/西日本の補完策、代替案における問題点

しかし、これらの補完策、代替案には問題点があります。
まず、補完策であるメタルIP電話に関して1つ心に留めておきたいのは、その実現技術に起因する伝送遅延です。この方法では、PSTN網がそうであったように、データ伝送の途中でアナログデータ⇔IPパケットという変換プロセスが加わります。伝送のたびにこうした変換が入るため、当然ながら遅延が発生します。この遅延はJISA※2(一般社団法人 情報サービス産業協会)でも検証済みです。2017年3月、NTTの提供するテスト環境でメタルIP電話の伝送速度を検証。その結果を示しました。全銀ベーシック手順と全銀TCP/IP手順という2つのプロトコルで、INSネット ディジタル通信モードとの速度比較を行ったところ、1.1倍から4倍程度の遅延が発生することが確認されました。今回のテストは、INSネットディジタル通信モードを利用していたEDI利用ユーザ向けの補完策の環境で行われましたが、メタルIP電話の環境でも同様の伝送遅延が発生すると考えられます。
EDIは自社で完結できる業務ではありません。1つの企業に数十社、数百社の取引先があり、その数十社、数百社の先に延べ数百社、数千社の取引先があります。こうした環境では、1社で生じる伝送遅延がわずかでも、それが次の取引に広がってしまうことでEDI全体としては深刻な渋滞を引き起こす可能性があります。
また、このような初めての大がかりな取り組みでは、ふたを開けてみないと何が発生するかわかりません。新環境に移行する場合、何かあっても戻れるようしばらく旧環境も並行稼働させるのが通例です。しかし、今回、INSネットディジタル通信モードの終了や、交換機経由のデータ通信がIP網に切り替わることにより、トラブルが発生しても元に戻れる場所はすでにないということを肝に銘じておく必要があります。
次に代替案ですが、「ひかり電話データコネクト」を利用する案では、従来の固定電話とは通信の仕様が異なっているため、これまで利用してきたEDIの通信に関わる機器を捨てて、ひかり電話データコネクトに対応したアダプタに交換しなければなりません。さらに、そのひかり電話データコネクト対応アダプタも、現時点(2021年1月現在)で提供しているのは4社のみです。しかも、接続するには送信側と受信側ともに、同一メーカー製品でなければなりません。送受信が企業系列内などに限られていて相手を絞れるならいいのですが、送信相手も複数、受信相手も複数というm対n接続でどのような接続になるかは、事前に予測不能なEDI業務において現実的ではありません。
一方、「IP-VPN」利用案ですが、これも「ひかり電話データコネクト」のように、送受信先が特定の相手に限られます。そこで多頻度大容量高セキュリティのEDIを行いたいというのならいいのでしょう。
ただ、この方法の決定的な短所は、1回線当たりの月額利用料が10万円などと高額であることです。これまで1通信20円、30円という単位で数百、数千の送受信先と通信してきたINSネットEDIの代替案としては、あまりにも高額すぎます。また、数百、数千単位の顧客を持つVAN(Value Added Network)などのサービス会社は、物理的に運用が不可能となってしまいます。
最後の「無線」を利用するというのも現実視しにくい案です。もともと場所によっては電波が不安定なので、ネットワークの中を長時間にわたって大容量データが流れるEDI業務に適していません。
また、一部のMVNO(仮想移動体通信事業者)がサービスを提供し始めていますが、基本的には特定事業者内での利用を想定したサービス設計となっています。そのため事業者間をまたぐ通信を実現するとなると割り増しコストが発生し、また、経由が増えることで伝送時間にも影響を及ぼします。
つまり、既存のメタル回線を維持するというのであれば、加入電話やINSネットの双方でメタルIP電話やメタルIP電話補完策が提供されますが、伝送遅延や未知のトラブルに見舞われるリスクがあります。メタルIP電話補完策に関しては、2027年の提供終了に備えてその後の対策も考えておかねばなりません。一方、光回線への移行を選んだとしても、示されている代替案は、これまで見てきたようにEDIには不向きです。いずれをとっても、利用目的を限定した利用は可能ですが、汎用的な回線としての利用は困難です。

※2 JISA(一般社団法人 情報サービス産業協会):2019年7月からは後継組織であるインターネットEDI普及推進協議会(JiEDIA)として活動中

図2 メタルIP電話では、データ伝送の途中でアナログデータ⇔IPパケットへの変換プロセスが加わる

図2 メタルIP電話では、データ伝送の途中でアナログデータ⇔IPパケットへの変換プロセスが加わる

図3 JISAが検証した補完策テスト環境でのISDN回線との伝送時間比較

図3 JISAが検証した補完策テスト環境でのISDN回線との伝送時間比較

※ 補完策検証結果:NTT東日本のhttp://www.ntt-west.co.jp/denwa/testbed/pdf/result/04-17-0006.pdf より抜粋

●IP 網移行時の問題解決策 インターネットEDIとは?

インターネットEDIの特長と仕組み

インターネットEDIは、その名のとおりインターネットを通信回線(通信用ネットワーク)として利用し、通信相手先とあらかじめ取り決めておいた「インターネットEDIプロトコル」を用いてデータの送受信を行うEDIです。普及したブロードバンドインターネットの恩恵を受けられるため、加入電話およびINSネットを通信回線として利用する従来のEDIと比較すると、遙かに高速なデータ送受信が可能となります。その一方で当然ながら、インターネットを利用する上で最重要課題となるセキュリティ対策(安心安全なデータ送受信を担保するための高度なセキュリティ対策)の検討も必要となります。また、各社のEDI業務規模に依存するため、範囲の広い/狭いはあるもののEDIに係る運用ならびに業務の見直しが必要となる可能性もあります。
このような現実はあるものの、インターネットEDIにはそれを凌駕するほどの多くのメリットが存在します。例えば、通信コストの削減、海外企業との取引、添付ファイル付与など、従来のEDIでは実現が困難であったことが容易にできるようになります。また、インターネットEDIは、既に国内の様々な業界で利用されていますが、最近はPSTNのIP網切り替えを見据え、従来のEDIからの移行先として採用を表明(例:“加入電話+全銀ベーシック手順”から“インターネット+全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)”への移行)している業界も増えてきており、世の中全体としてインターネットEDIへの移行が加速度的に進んでいるといっても過言ではない状況となっています。今後、切り替え開始までいよいよ3年を切った「PSTNのIP網切り替え」が迫るにつれ、ますます従来のEDI(全銀ベーシック手順、全銀TCP/IP手順、JCA手順)からインターネットEDIへの移行が広がっていくと予想されます。

図4 NTT東西が発表している固定電話網のIP網移行のロードマップ

図4 NTT東西が発表している固定電話網のIP網移行のロードマップ

<インターネットEDIの特長>

  • グローバルで共通なインターネットの利用が可能
  • 加入電話、INSネットに比べ、通信コストが安価
  • 高速で大容量のデータ交換が可能
  • 高度な認証・暗号化技術によりセキュアなデータ交換が可能
  • CSVやXML、画像・動画など様々なデータ形式が利用可能
  • ファイル添付にも対応

以下のページでは、インターネットEDIで利用される6大通信プロトコルを解説しています。また、各業界で決まったインターネットEDIについても解説しています。併せてご覧ください。

こんな方にオススメ

  • 社内でEDI業務に携わっている方
  • SIerとしてEDIシステムの構築に携わっている方
  • EDIサービスを提供している企業の方

●インターネットEDIの導入事例

日本航空電子工業株式会社様
固定電話のIP網化でインターネットEDI移行を早期決断 セキュアな2ノード構成 ACMS B2Bへアップグレード

●インターネットEDI関連製品