データ活用・データ連携のお役立ちコラム
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EDIは、企業間の取引データを電子的に交換する仕組みで、さまざまな業界で標準EDIと呼ばれる共通規格があり、物流業界においてもこの規格は存在します。本記事では、物流業界における標準EDIの概要と、EDIを導入するメリット・デメリット、導入の手順について紹介します。
EDI(Electronic Data Interchange)は、企業間の取引データを電子的に交換する仕組みです。取引データを、通信回線を介して標準的な規約(可能な限り広く合意された各種規約)を用いて、コンピュータ間で交換します。その導入により、データの入力ミスを減らし、処理の迅速化やコスト削減、データの一元を実現することができます。
標準EDIは、企業間で取引データを電子的に交換するための共通規格です。これにより、異なる企業間でも統一されたフォーマットでデータをやり取りでき、業務の効率化やミスの削減が実現できます。今日、さまざまな業界において標準EDIが定められていますが、物流業界においても2種類の標準EDIが存在します。それが、物流EDI標準 JTRN(ジェイトラン)と物流XML/EDI標準です。前者は物流EDI推進委員会が運営しているもので、長年にわたって物流業界で利用されてきました。後者は、一般社団法人 日本物流団体連合会が運営しており、無償で公開されているインターネット対応型の物流EDI規格です。
EDIには個別EDIというものも存在します。これは、取引先ごとに独自のルールを設定するEDIの形式です。個別EDIと標準EDIの間には、以下のような違いがあります。個別EDIは、企業ごとに個別の仕様を利用するため、柔軟な対応が可能であるものの、取引先が増えるとデータ変換が必要になるなど管理が煩雑になります。それに対して標準EDIは、共通の仕様を利用するため、企業が異なっていたり、取引先が増えても、手間をかけることなくスムーズにデータを送受信できます。
標準EDIには定められるべき要件があります。主な要件には、以下に示す4点があります。
1、取引に関する規約(EDI取引契約)
企業間の取引を円滑に進めるための契約ルールを定める。
2、業務運用に関する規約(運用ルール)
取引の流れや業務プロセスを標準化し、スムーズな運用を実現する。
3、情報表現方法の規約(シンタックスルール標準メッセージ・コード)
データのフォーマットやコード体系を統一し、異なるシステム間でも正確な情報交換できるようにする。
4、情報伝達方法の規約(通信手順)
データの送受信に関する通信プロトコルを標準化し、安全かつ確実な情報伝達を保証する
物流業界には、EDI以外にもIT化を検討する業務システムがいくつかあります。ここでは、代表的な例として、EOS(Electronic Ordering System)と流通BMS(Business Message Standards)を紹介するとともに、それぞれがどうEDIと異なるのかを示します。
EOSは、企業間の受発注業務を電子化するシステムです。これを採用することにより、電話やFAXを使ったアナログな受発注方法から脱却可能です。たとえば、発注側の業務観点からすると、在庫が不足した際に、端末から即座にオンラインで発注できます。また、注文書の作成や管理が不要になり、ペーパーレス化の推進、業務負担軽減、発注ミス削減などの恩恵を受けられ、さらに貴重な人員をより本質的な業務に振り向けることができます。EOSとEDIの違いは、EOSが受発注業務に特化したシステムであるのに対して、EDIはその範囲にとどまらず、請求書や納品書などの取引データ全般を交換できるシステムであることです。
流通BMSは、流通業界向けのEDI標準仕様です。従来のJCA手順に代わる形で導入が進んでおり、インターネットを活用したデータ交換を可能にすることで、業務の効率化やコスト削減を実現します。特長として、インターネットを活用することで高速通信が可能になること、業務プロセスやメッセージが標準化されているため取引先ごとの個別対応が不要になること、受領データを税法上の取引記録として扱え、ペーパーレス化が図れることなどがあります。流通BMSとEDIの違いは、流通BMSが流通業界向けのEDI標準仕様であるのに対して、EDIは企業間で電子データを交換する仕組み全般を意味していることです。
物流業界でEDIを導入することには、多くのメリットがあります。ここでは、その主なものとして、「業務の効率化に役立つ」「生産性が向上する」「サービスの品質が向上する」という3点について解説します。
従来の電話やFAXを使った手作業では、データ作成に時間がかかるだけでなくミスも発生しやすく、媒体の特性もあってデータ伝達にも時間を要しました。しかし、EDIを導入すると受発注や請求処理などが電子化できる上に、人が介入する場面が減るためミスも減少し、スムーズな情報交換が可能になります。また、リアルタイムでデータが更新されるため、在庫管理や配送手配が迅速化し、業務全体のスピードアップ、効率向上につながります。
生産性の向上も大きなメリットです。従来の手作業では、注文書や請求書の処理に多くの時間が費やされていました。しかし、EDIを活用することで、これらの作業を自動化でき、従業員はより本質的な業務に集中できるようになります。さらに、統一されたデータフォーマットを用いることにより異なる企業間のやり取りが円滑化し、無駄な調整作業が不要になります。
EDIの導入は、物流業界におけるサービス品質の向上にも貢献します。たとえば、受発注から配送までの情報が正確に管理されることで、適切なタイミングで商品を届けることが可能になります。また、リアルタイムでデータを共有することで、企業間の調整がスムーズになります。さらに、データ分析も可能になり、需要予測や在庫管理の精度が高まり、顧客のニーズに応じた柔軟な対応が可能になります。
一方で、物流業界にEDIを導入することでもたらされるデメリットというものも、わずかながら存在します。ここでは「導入にコストと工数がかかる」「システムトラブルが生じる可能性がある」という2点について解説します。
EDIはシステムであるため、導入するにはコストと工数がかかります。それゆえ、十分に計画を練って進める必要があります。また、社内の業務フローをEDIに適応させるためのトレーニングや取引先との調整も必要で、これも時間を要する原因になります。導入後も一定の運用管理が求められるため、導入による費用対効果については事前によく見極めておきましょう。
システムトラブルにより業務停止に到る可能性もあります。ネットワークの障害やシステムの不具合が発生すると、データ交換が一時的に不能となり、受発注や物流業務に影響を及ぼします。特にリアルタイムでの取引が求められる物流業界では、システムの停止が業務の遅延や取引先への信用問題につながる可能性があります。そのため、可用性の高いEDIシステムの選定が重要であり、また障害発生時の対応策を事前に準備しておくことも不可欠です。
物流業界でEDIを導入する際の一般的な手順は以下の通りです。
1、現状分析
現状の取引実態とそこで抱えている顕在的/潜在的な課題を洗い出す。
2、導入目的の明確化
EDI導入の目的を整理し、業務効率化やコスト削減などの目標を設定する。
3、取引先との調整
EDIを利用する取引先と導入方針を共有し、必要な仕様を確認する。
4、適切なEDIシステムの選定
自社および取引先の要件にあったシステムを選ぶ。
5、システム構築とテスト
EDIシステムを構築し、データ交換のテストを実施して問題点を洗い出し、解決する。
6、社内業務フローの調整
EDI導入に伴い、社内の業務プロセスを最適化し、運用ルールを策定する。
7、運用開始とモニタリング
EDIを本格運用し、データ交換の精度や業務改善効果を定期的に評価する。
コストは、システムの種類や企業の規模によって異なります。オンプレミス型EDIシステムでは、初期費用としてソフトウェアの購入やカスタマイズ費用が発生し、さらに運用開始後の維持管理費用も考慮する必要があります。クラウド型EDIを選択すれば、オンプレミス型よりも初期投資を抑えられる可能性がありますが、月額利用料がかかることが一般的です。また、社内の業務フローをEDIに適応させるための研修や取引先との調整も欠かすことはできず、これらの準備にかかるコストも考慮に入れておきましょう。
物流EDIの導入にかかる時間は、企業の規模や既存システムとの連携状況によって異なります。ただ、自社で完結できるシステムではなく、取引先とのやりとりが必要になるため、長くなる傾向があります。導入計画の策定からシステム選定、取引先との調整、テスト運用を経て本格導入に至るまで、短くて数カ月から長くなると1年以上かかることもあります。すでに本格稼働のターゲットタイムが設定されている場合には、早く着手するほど余裕を持ってプロジェクトに取り組むことができます。
ここまで、物流業界の標準EDIの概要やその導入メリット、手順について見てきました。おおまかな全体像を把握していただけたでしょうか。物流業界は現在、人手不足や輸送コストの高騰、環境負荷の軽減といった課題に直面しています。業界全体で電子化により業務を効率化していくことはもはや不可欠といえ、その意味で標準EDIの導入は大きな役割を果たします。この記事が御社における業務改革のきっかけになれば幸いです。