明石市は兵庫県南部にある人口約30万人の中核市で、平成31年には市制100周年を迎える。市民の生活を支える明石市役所では、これまで国民健康保険システム(以下、国保システム)をメインフレーム環境で運用してきた。保守はメインフレームメーカー主体で行われており、運用開始から長い年月が経過。そのためプログラムはブラックボックス化が進み、役所内部での改修が困難になっていた。また、運用コストも高止まりしていた。
そうした中、平成27年5月に改正法が成立し、国はいわゆる“国保の広域化”を発表した。これは、従来市町村単位で運営してきた国民健康保険を、平成30年4月から都道府県も加わり(明石市の場合は兵庫県)、市町村と共同で運営するというものだ。より具体的には、都道府県が財政運営の責任を担い、市町村は引き続き各種手続きの窓口を担う。この運営の変化に伴い、国は3つのシステムを含む国保保険者標準事務処理システムを開発。そのうちの1つである市町村事務処理標準システム(以下、標準システム)を、希望する市町村に無償配布することになった。明石市では、その標準システムの導入を、メインフレームから脱却する機会と前向きに捉えたが、そこには1つ壁があった。メインフレームから標準システムへどのように既存データを移すかという、データ移行だ。両者では文字コード体系が異なるため、変換や加工を行う必要があり、こうした付帯業務については、市でもコストを負担する必要がある。平成28年1月、同市国民健康保険課は移行手法と予算についての検討を開始した。その結果、明石市は標準システムの導入を決定し、日立システムズが構築作業を実施、データ移行に関しては、DALの「RACCOON」を使用して作業を行うことになった。
当初、同課ではメインフレームメーカーが提供する変換ツールの利用を考えた。しかし、このツールは国保システムで多用している可変長マルチレイアウトデータを扱えなかった。そこで、Web検索して発見したのが、DALのデータ ハンドリング プラットフォームRACCOONだった。早速DALに連絡を取り、製品の特長を探った。知りたいポイントは3点だった。可変長マルチレイアウトのデータを扱えるか。大量データを高速に変換できるか。サーバ等の機器が不要で一般的なPCで実行可能か。いずれもイエスという答えが返ってきた。さらに同課は、実際に約70万件の可変長マルチレイアウトデータのフォーマット変換を、ノートPCにインストールされたRACCOONで検証してみた。この間、わずか1分。明石市 市民生活局 市民生活室 国民健康保険課 絹笠光広氏は「これで前へ進める」という感触を得たという。平成29年2月のことだ。
「データ移行ができなければシステム移行は実現不可能なので、文字コード変換手法に目途をつけることは非常に重要でした。RACCOONは可変長マルチレイアウトデータを難なく扱い、一般的なPCですぐに変換し終えました。GUIでマッピングできるなど直感的に使える点にも好印象を持ちました。しかも、パッケージですからコストパフォーマンスも高い。この先の展開に光がさした瞬間でした」
この後、国民健康保険課では正式に市の承認を得るため3つの候補でコストに関する比較検討資料を作成した。その中で唯一現実的な減価償却が可能だったのがRACCOONの採用で、それが導入の決め手になったという。
国民健康保険課に標準システムが配布されたのは平成29年9月末。そこから本格的に国保システムとの間でマッピングを開始した。翌年4月の本稼働開始は動かせず、ユーザーテストを考えると3月頭には試運転に入らなければならない。国民健康保険課チームとDALとの緊密なパートナーシップが求められ、移行作業の最盛期は1カ月にわたってDALのエンジニアが支援に入った。明石市市民生活局 市民生活室 国民健康保険課賦課係長 坂下浩二氏は、当時を次のように振り返る。
「RACCOONはデータのマッピングにめっぽう強い製品だなと思いました。また、DALのエンジニアは国保業務に携わるのは初めてなのに、『移行先でそのようにデータを要求しているなら、移行元でこのようにデータを整形した後に変換をかけたらどうか』など、アイデアが豊富で、アドバイスをきっかけにひらめいたことも多々ありました」
明石市 市民生活局 市民生活室 国民健康保険課 高光智也氏は、坂下氏の言葉を補足して次のように語る。
「RACCOONには変換前にデータ品質をチェックする機能があって、それが移行作業の効率化に役立ちました」
最終的にRACCOONは、標準システムが搭載する共通業務機能、資格管理業務、保険料(税)賦課業務、給付業務、保険料(税)収納業務という5つの業務導入に向け、データ移行を実現した。全体で数千万件というボリュームだったが、かかった時間は13時間ほどだった。それも、用いたハードウェアは一般的なWindows環境のPCだった。本件に携わった株式会社 日立システムズ 宮村慎哉氏は次のように語る。
「RACCOONの変換処理は非常に速かったので、今回のケースではサーバを使う必要はありませんと進言しました。DALの協力もあって、必要なタイミングで必要なデータが手に入り、プロジェクトを円滑に進めることができました」
標準システムは当初の予定どおり平成30年3月頭にはユーザーテストを開始、4月1日の制度移行に合わせて本稼働を果たした。今日に至るまでデータに起因するトラブルは発生することなく順調に稼働している。坂下氏は「RACCOONを使ったからこそ、制度移行日に間に合わせることができたと思います」と語る。
RACCOONを利用してデータ移行を実施し、標準システムへのシステム移行を終え稼動することにより、同課では平成34年までは年間1,000万円、35年以降は年間3,000万円のコスト削減が実現する。
市役所内にはメインフレームで動くシステムがまだ多数ある。また、データがExcelで管理されているのみで本格的にシステム化されていない業務もさまざまあるという。「今後、そうしたシステムや業務にRACCOONを活用していければよいと思っています」と絹笠氏は語った。
数TBに上るメインフレームデータのオープン移行
16時間でデータ変換を完了したRACCOON
公共・自治体向けパッケージで生じるデータ移行プロセス
RACCOON採用で属人化を解消、生産性と利益率が向上
EDIシステムの刷新をきっかけに
ACMS Apex + RACCOONで、グループ全体のデータ連携基盤を実現
基幹システム製品のクラウド化で求められたデータ移行工程の見直し
RACCOONで精査が必要なデータを簡単かつ高品質に移す体制を確立
回線環境の変化を好機と捉え、EDI基盤を刷新
ACMS Apex & RACCOONでDXも推進
めざしたのは4通販サイトへのデータ提供の自動化
RACCOON導入で情報の精度・スピードが一気に向上
基幹EDIインフラをAS/400からAWSへ
ACMS Apex、RACCOONが短期開発に貢献