ビジネス現場が大混乱に陥る前に、
EDIの"身の振り方"を考えよう

INS終了、このさき固定電話の運命は…。
2024年の問題ではなく、すでに噴き出しつつある懸念

2017年4月にNTT東西が発表した、固定電話網※1のIP網移行計画の詳細はもうご存じでしょうか。これはEDIにとって、青天の霹靂とも言える内容でした。なぜなら、現在のEDI環境の殆どが固定電話網を利用しておりそれが使えなくなる、そして、その時期がもうすぐそこに迫っているということを意味しているからです。代替案と補完策は示されていますが、それらはまさに"帯に短しタスキに長し"。このままでいくとEDIの現場は大混乱に陥ってしまいます。
本稿では、このような事態を回避する2つの解決策をご紹介するとともに、今すぐにでも着手していただきたい具体的な作業をお伝えします。

●EDIユーザーは深読みするべきNTT東西の最新発表

それは衝撃的なものでした。2017年4月17日、東日本電信電話株式会社および西日本電信電話株式会社(以下、NTT東西)は、すでに発表していた固定電話網のIP網移行について最新発表を行いました。それによると、IP網への契約切り替えが始まるのは2024年1月で、2025年1月までには切り替え完了を予定しているとあります。対象となっているのは、加入電話※2およびサービス終了が宣言されたINSネットのディジタル通信モードです。NTT東西はこのときの発表で、引き続き固定電話を使用したいと考える企業に対しては、その受け皿としてメタルIP電話※3やこの技術を利用した補完策の用意があることも明かしました。
一読すると、「なんだ結局、この先も固定電話は使えるのか」と思われるかもしれません。しかし、安心している場合ではないのです。特にEDIで固定電話を利用している企業にとっては、一気に問題が噴出することになります。なぜならこの発表は、"ビジネスデータの送受信に日々利用している現在のEDI環境は使えなくなる、そして、その時期がもうすぐそこに迫っている”という2つの重大な事実を意味しているからです。

※1 固定電話:電話回線(アナログ回線)とINSネット(ISDN/デジタル回線)の両方を含む
※2 加入電話:家庭で普通に使われてきた電話回線(アナログ回線)
※3 メタルIP電話:現行の電話回線と同じメタル回線で供給されるIP網を使った電話回線サービス

図1 固定電話網からIP網へと切り替えられる通信のコアネットワーク

図1 固定電話網からIP網へと切り替えられる通信のコアネットワーク

●この切り替えによる現状EDI業務への影響は甚大

これは脅しではありません。今回行われる固定電話網のIP網への切り替えは、EDI業務に非常に大きな影響を及ぼします。その理由を、NTT東西から提示された代替案と補完策それぞれのケースで説明します。
第1は、代替案についてです。EDIにINSネット ディジタル通信モードを利用していた企業に、「ひかり電話データコネクト」、複数の拠点間をIPで相互接続する「IP-VPN」、NTT東西以外の通信事業者が提供する「無線」利用という3つの代替案を提示していますが、これらは後に述べるようにいずれも少なからぬ問題を抱えています。
第2に、補完策のメタルIP電話です。加入電話がそのまま継続利用できるとするメタルIP電話ですが、既存のメタル回線をそのまま利用できるというメリットは確かにあります。しかし、この補完策は期限つきで提供される、いわば過渡期のつなぎ策です。NTT東西は現時点で提供はいつまでと明言していないものの、この補完策を選択することで問題を解決したとは思わない方がいいでしょう。さらに悪いことに、この方法は伝送遅延が発生します。これもこの後明らかにします。ちなみに、メタルIP電話そのものは比較的長く提供される予定です。ただ、これも永続的に提供されるかどうかに関しては未定です。

NTT東西が提示する代替案と補完策で十分なのか?

●INSネット終了で挙げられた3つの代替案の少なからぬ問題

3つの代替案の問題点をそれぞれ見ていきましょう。
まず、「ひかり電話データコネクト」を利用する案ですが、これは、ひかり電話の契約者同士でデータ通信を行おうというものです。しかし、従来の固定電話とは通信の仕様が異なっているため、この方法を選択するならば、これまで利用してきた機器やソフトウェアを捨てて、ひかり電話データコネクトに対応した機器やソフトウェアに交換しなければなりません。さらに、そのひかり電話データコネクト対応機器も、現時点(2017年08月現在)では提供しているのは3社のみです。しかも、接続するには送信側と受信側も同一メーカー製品でなければなりません。送受信が企業系列内などに限られていて相手を絞れるならいいのですが、送信相手も複数、受信相手も複数というm対n接続で、どのような接続になるかは事前に予測不能なEDI業務においては、これはまったく非現実的なことです。
次に、「IP-VPN」利用案ですが、これは最近さまざまな通信事業者がサービスを提供するようになり、企業でも一般的に使われ始めていますので、実現性が高いイメージがあるかもしれません。しかし、これも「ひかり電話データコネクト」で触れたように、送受信先が特定の相手に限られ、そこで多頻度大容量高セキュリティのEDIを行いたいというのなら有効でしょう。ただ、「IP-VPN」利用案の決定的な問題は、高額であることです。INSネットEDIの代替案としては、あまりにも不釣り合いと言わざるを得ません。
最後の「無線」を利用するというのも、現実視しにくい案です。もともと場所によっては電波が不安定なので、ネットワークの中を長時間にわたって大容量データが流れるEDI業務に適していません。また、一部のMVNO(仮想移動体通信事業者)がサービスを提供し始めていますが、基本的には特定事業者内での利用を想定したサービス設計となっています。そのため事業者間をまたぐ通信を実現するとなると割り増しコストが発生し、また経由が増えることで伝送時間にも影響を及ぼします。

●メタルIP電話の伝送遅延は最大4倍となることが検証で判明

今度はメタルIP電話の伝送遅延を考えましょう。基本的な伝送速度は、INSネット ディジタル通信モード終了で提供される、メタルIP電話技術を利用した補完策で64kbps、メタルIP電話そのもので2,400bpsです。この方法で一番重要な点は、図2に示すように、データ伝送の途中でアナログデータ⇔IPパケットへの変換プロセスが加わるということです。そのために伝送遅延が発生するのです。図3に、2017年3月、JISA(一般社団法人 情報サービス産業協会)がNTTの提供するテスト環境でメタルIP電話の伝送速度を検証。その結果を示しました。全銀ベーシック手順と全銀TCP/IP手順という2つのプロトコルで、INSネット ディジタル通信モードとの速度比較を行ったところ、1.1倍から4倍程度の遅延が発生することが確認されました。今回のテストは補完策の環境で行われましたが、メタルIP電話の環境でも同様の伝送遅延が発生すると考えられます。

図2 メタルIP電話では、データ伝送の途中でアナログデータ⇔IPパケットへの変換プロセスが加わる

図2 メタルIP電話では、データ伝送の途中でアナログデータ⇔IPパケットへの変換プロセスが加わる

図3 JISAが検証した補完策テスト環境でのISDN回線との伝送時間比較

図3 JISAが検証した補完策テスト環境でのISDN回線との伝送時間比較

※ 補完策検証結果:NTT東日本のhttp://www.ntt-west.co.jp/denwa/testbed/pdf/result/04-17-0006.pdf より抜粋

4倍というのはかなり深刻な数字です。これまで通信にアナログ回線で2時間要していたEDI環境であれば、メタルIP電話では8時間になるということです。もし夜間に行ったとして、リトライでも発生したら翌日の始業時間に間に合わない危険性があります。また2時間なら1日に数回通信を実行できますが、8時間もかかったらせいぜい1~2回が限度で、発注も、出荷も、今までの質と量を維持できなくなってしまいます。納期までに商品が届かず、店舗に品物が並ばないなどといった悪夢のようなことが現実に起こりかねません。
これまでの話を整理します。INSネット ディジタル通信モードの代替案や補完策は示されていますが、それらはいずれも不十分で既存のEDI環境は実用に堪えなくなり、このまま放置すると、EDIを必要とするありとあらゆるビジネスの現場が大混乱に陥ってしまうのは必至です。

EDIの“身の振り方”と今すぐにやるべきことは何?

●混乱を回避するための2つの解決策

このような事態に直面することを回避するには、どうしたらいいのでしょうか?
結論から言えば、にっちもさっちもいかなくなってしまう前に、従来のEDIを高速にデータ処理可能なインターネットEDIへと移行してしまうことです。
グローバルな視点で考えると、EDIの今後の方向性はインターネットEDIで収束していきます。これまで日本のEDIは、わが国独自の仕様で高度なレベルで発展してきました。しかし、あたりを見回してみると、世界でここまで繊細な運用管理を行っている国はほかになく、逆にそのために日本と接続できないと世界から批判を受けてきました。これからは世界とつながるためにグローバル標準でスピードも速いインターネットEDIを採用していくのが望ましいと思われます。具体的には2つの手段があります。
1つめは、EDI環境のみをインターネットにする方法です。そしてEDI通信プロトコルのみをインターネット対応のプロトコルに切り替えるのです。こちらは業務や運用の調査・見直し・開発を最小限にとどめ、移行作業を極力小さく抑えることが可能です。ただし、これまで電話のダイアルアップ接続であったのが、インターネットでは常時接続になり、セキュリティ対策が必要になるなど運用に違いがあるため、現実的な実現方法については詳細な調査が必要です。
2つめは、インターネットEDI標準を利用したEDIへ移行する方法です。各業界で取り組んでいるメッセージやメッセージフローの標準などを採用し、企業の業務改革も合わせながら実施する方式です。文字どおり、最新鋭のEDI環境に刷新できますが、業務の見直しが必要で、社内および業界内で十分な検討を行い、合意を得なければならず、移行に少なくとも2~3年はかかります。そのため、すでに計画中、あるいは移行を検討中という企業は迅速にキックオフすることをお勧めします。業界によっては、通信プロトコルのみ指定し、メッセージは既存のものをそのまま使用し、業務移行の負荷を減らすことを検討している場合もあるので、まずは業界の指針を確認しましょう。このインターネットEDIをすでに実施している業界として、流通業界、石油化学業界、建設業界、電子機器業界があります。

●移行には時間が必要。今から着手しないと間に合わない

どちらを選ぶにしても、1つ言えることは、従来のEDI環境から大きな変更を伴うため、今までのように安定したスムーズな通信を実現しようとすると、その調査・検討・移行にたいへん時間がかかるということです。それは、その途中で技術的に様々な問題が出現するからです。
さらに、EDIというのは相手のある業務です。一般のシステム開発と異なり、自社内だけで完結することはできません。2000年問題のように、Xデーから逆算して駆け込みでやっつけ仕事的に解決することは不可能なのです。IP網への契約切替が始まるのは2024年1月ですが、NTT東西での内部工事はそれより前に始まります。様々な調整が必要になるから、ほんとうに今から着手しないと、2024年が来る前に現場の混乱が始まるかもしれません。

図4 NTT東西が発表している固定電話網のIP網移行のロードマップ

図4 NTT東西が発表している固定電話網のIP網移行のロードマップ

※ 「固定電話網の円滑な移行の在り方【平成28年2月25日付け 諮問第1224号】二次答申 ~最終形に向けた円滑な移行の在り方~ (案)
平成29年6月28日 情報通信審議会 電気通信事業政策部会」をもとに作成

●ただちに取りかかるべきは現状調査

それでは、何から手をつけるべきでしょう。まずは、今、行っているEDI業務の現状調査です。通信事業者はNTT東西か、他事業者か。企業内全体でどのような通信回線契約があるのか、それはINSネットか加入電話か、それ以外か、物理的に接続されているハードウェアには何があるのか。それがどの通信回線とどのような接続関係になっているのか、また、取引先ごとの接続形態、設定形態はどうなっているのか。どの取引先との接続が移行対象か。送受信ファイルはどの程度の容量か、連絡を取るべき取引先の担当者は誰か。こういったことをきめ細かく調べ上げていきます。この機会に台帳のようなものを1つ用意してもいいかもしれません。
調査の途中で何か不明な点、曖昧な点が出てきたらそのままにしておかず、ささいなことでもシステムインテグレータやベンダーに聞くなり、問い合わせるなりして問題をつぶしておきましょう。データ・アプリケーションも喜んでお手伝いします。ここで暗点を残さないようにしておくことが、確実に次のステップへ進むための近道です。